ものづくりの面白さが凝縮した、神社仏閣建築の道へ

アトリエ・林田設計工房
福岡県久留米市山川町359-1
■代表者: 林田 敏治
■創業: 平成3年3月21日
■計画承認日: 令和2年5月29日
 
■TEL: 0942-43-7824

アルバイトをしながら生計を立てた独立当初

住宅や店舗、クリニックなどの設計の傍ら、神社仏閣の設計も手がける「アトリエ・林田設計工房」の林田敏治さん。昔からものづくりが好きで、大学は建築学部を選び、卒業後は住宅メーカーに就職した。ただ、そこで任せられたのは営業だった。転属を願ったものの叶わず、営業を3年経験し転職。店舗設計事務所で経験を積み、後に福岡市の設計事務所に入ってからは、九州一円のオフィスビルやガソリンスタンドなどの設計を手がけていた。
起業したのは30歳の頃だ。もともと、いずれは独立しようと考えていたこともあって、当時住んでいた久留米にアトリエを構え、1991年に創業した。いざ仕事を始めたものの、久留米には建築関係の知人が少なかった。同級生や数少ない知り合いの伝手で仕事を受注し、住宅の設計に取り組み始める。木造住宅からツーバイフォー住宅、鉄骨RCマンションまで引き受けた。創業時は仕事も少なかったので、自分の仕事と並行して知人の事務所へアルバイトにも行くくらい、事業を軌道にのせるまで苦労したという。

順調に受注が増えるなか、方向性の違いを感じる
その後、建設業者及び医療器具メーカーを含む複数業者でチームを立ち上げ、クリニックの開業支援をスタートする。北部九州を中心に整形外科や眼科、歯科などの建物を設計し、独立開業する医師を支援。一度関わった医師からの紹介もあり、医療のネットワークで次第に受注を増やす事ができた。
また、住宅メーカーで働く先輩からの声かけもあり、年間100棟ほどの戸建て建築設計にも関わる。が、5年が経った頃、その住宅メーカーの仕事からは一旦手を引いた。「自分の目指したいことと、方向性が違うのでは」と感じたからだ。
「自分が本当にやりたい設計」をしながら働きたい。他の設計事務所があまり携わっていない、神社仏閣の設計にシフトしていった。

伝統様式を知り、現場を見て学ぶ

神社仏閣の建築設計の面白さは、奥深さにあると林田さんは語る。一般住宅は現在では工場で加工したユニットを現場でプラモデルのように組み立てることが多くなったが、神社仏閣は昔ながらのつくりかたを変えていない。材木にこだわり、原木から一つずつ部品をつくって組み上げていく。円柱一本をとってみても、四角に加工された製材を八角形に削り出し、次は十六角形に、六十四角形に、と削りながら円柱に仕上げていく。工程のすべてがハンドメイドなのだ。もちろん、伝統の様式を知らないと到底できないことだし、道具も普通の建築とは違うため勉強になり、そこが難しくもあり醍醐味でもある。
たまたま、知り合いの大工から頼まれ引き受けた仕事で、庫裡と納骨堂を手がけていた実績もあり、林田さんは田主丸町の門徒会館の設計に関わることになった。その時に施工を担当したのが神社仏閣を主に手がけている建築会社で、その社長の誘いもあって、本格的に勉強を始める。
この業界は競争相手が少ないかわりに、教えてくれる人も参考図書も少ない。自分で書籍を探したり、大工さんに聴いたり、仏具資料を取り寄せ仏教の宗派の違いを学んだ久留米市にて、奈良県薬師寺金堂の再建工事に携わった宮大工の紹介を受け、社寺建築の奥深さを聞かせていただいた。後日、宮大工さんの滋賀県近江八幡市の自宅まで車で押しかけて、貴重な資料を拝見させてもらい、再度話を聞かせてもらった。また、一緒に社寺見学に出かけることもあった。

竣工まで5~6年!関わる人数も段違い
社寺建設は、通常、建設委員会が設立され建設委員と呼ばれる役員の方々が10人近くいる。ます。建設委員会で設計、建設業者及び予算等を協議して決定すれば、お寺の門徒さんから建設費を集めることとなる。建設委員会と打ち合わせ図面が決定すると、総代会の承認を得ることとなるが、時には100名近くの出席者となるため、いろんな意見が出てまとまりが困難な時も多々あり、丁寧に説明をし、承諾を得なければならない。
以上のような段階を踏むため、工期はどうしても長くなり、最低でも5~6年はかかるという。「時間はかかるけれど、手づくりの面白さがある」と林田さん。一度建築を引き受けると相談が増え、今では年に2件ほど手がけるようになった。筑後エリアでも数少ない神社仏閣の設計事務所として、一般的な設計・建築との二足のわらじを履いている。




経営革新計画を策定してみようと思ったきっかけは?

3DのCADソフトで図面作成のスピードアップ
これまで寺社の図面は2次元CADで描いていました。役所に申請する書類の図面でも、住宅なら1週間ほどで完成する一方で、寺社は1ケ月くらいかかります。しかも修正が発生するとまた時間を割かなければならず、その上、修正内容を各建築関係者と共有したくても各々の使用ソフトが異なるため、平面図と立面図間で修正処理が連動されずに個別の修正作業が生じていたのです。スピードアップを図るために、国交省も推奨している3DのCADソフト・BIM(ビルディングインフォメーションモデリング、通称ビーム)を導入しようと考えました。
ビームを使えば、従来のように平面図から図面を作成するのではなく、パースから取りかかれるので、意匠やデザインに集中できます。何より、寺社を手がけているという当社の強みを生かせると思ったのです。

商工会と共同で申請をどのように進めましたか?

経営革新とIT導入補助金の両方に申請を提出
知り合いが補助金を得てビームを導入したと聞いたので田主丸町商工会に相談しました。商工会の会員になったのは独立してすぐで、もう20年以上のお付き合いですが、補助金の申請をするのは初めてのことでした。当初は新たな取り組みに際して支援いただける「経営革新」に紐付けられた補助金を申請する予定で、途中で国の「IT導入補助金」も活用できそうだとわかり、両方に申請書を提出。すると「IT導入補助金」のほうが通りました。ビームのソフト自体は約150万円、当社で導入しているソフトのバージョンアップに毎年20万円と、設備投資が必要だったので、60万円の補助金が出て助かりました。

ソフトを導入したメリットと、今後の展開について

人件費の削減、生産性の向上につながる
ビームの導入は図面作成を効率化することができるでしょう。作成や修正にかけていた時間を短縮することで、他の案件も引き受けられるようになるはずです。実際のところ、今後3~4年をかけて福岡県県内の開発に携わることになっているのですが、ビームがあれば現場にいても容易に図面を描くことができ、二つの仕事を同時に進めることができます。設計資料は事務所のサーバーで共有するため、行き来の時間ロスがなくなるのもメリットです。
それ以外にも、「経営革新」に申請することで、これまでの経営を振り返ることができました。今までの流れを再確認することで、これからどのように仕事を受けていくか、いつまで働くかなど考えることができた。経営計画を立てることで見える化が図れたのです。

人と人とのつながりを大切にしたものづくりを

これから林田さんが取り組む県内開発プロジェクトは、福岡郊外のバイパス沿いに飲食店と物産店をつくり、農業施設なども手がける大規模な案件だ。始まってしまうと、週末くらいしか久留米の事務所にもどれない。この仕事に誘ってくれたのは、かつて働いていた職場の上司だった。
これまでの医療の仕事も、住宅の仕事も、人の縁でつながってきた。創業当初は苦労したが、それでも一つ一つの相談に誠実に向き合ってきたから、今があるのだろう。実は、「アトリエ・林田設計工房」はホームページをつくっていない。ホームページがあると、林田さん一人では受けきれないからだ。「人と人とのつながりは本当にありがたいと思っています。だからこそ、今仕事のお話をいただいている方を大切にしたい」と林田さんは語る。それは寺社も同じで「寺社の方々といろんなお話ができますし、人間関係を構築しないと先に進まないのも面白いんですよ」。学生の頃に抱いた「ものづくりがしたい」という想いは、今後も人の縁でさらに広がっていく。