九州で2社だけの「へら鉸り」で福岡デザインアワード2021銀賞受賞

有限会社江口へら鉸り製作所
久留米市田主丸町豊城482-1
■代表者: 江口 聖二
               
■補助金採択日: 2022年11月25日
■TEL: 0943-72-3539

事業内容

1966(昭和41)年に先代が創業し、1975(昭和50)年5月に法人化、2012(平成24)年に江口聖二代表が引き継いだ、老舗の金属加工企業。製鉄所や半導体メーカーの生産機械部品などの製作のほか、伝統的な金属加工技術である「へら鉸り加工」を強みとしている。

About us 会社概要

熟練の職人による技術で完成する美
「へら鉸り加工」という、九州で2社のみが持つ、高度な金属加工技術が強みの「有限会社江口へら鉸り製作所」。これまでは生産設備に使用される特殊な加工を任されることが多く、製鉄所や半導体メーカーの生産機械部品などをメインに手掛けてきました。ただ、近年は半導体市場の変化や、海外メーカーとの競争、得意先の業況、材料費高騰など外部の環境が事業に反映されるようになった、と代表の江口聖二さんは言います。さらに新型コロナウイルス感染拡大時には、製鉄所関連の受注が大幅に落ち込む事態に陥りました。「何かほかの工場で手掛けていないことを新事業として始めたい」と、「へら鉸り加工」の技術を生かして小売りできる商品づくりに取り組んだのです。
「へら鉸り加工」とは、平面状あるいは円筒状の金属板を回転させながら、へらと呼ばれる棒を押し当てて、少しずつ変形させる塑性加工の手法です。特に江口へら鉸り製作所は熟練職人の手作業に頼る部分が大きく、材料によって違うクセをつかみ、手先の感覚だけで0.2mm単位での精度を実現するという、他の追随を許さない技術力が特長です。「へら鉸り加工」ができる職人は少なく、「技術が人から人へ受け継がれてきた」と江口さん。「もちろんこれからは、当社の20代の職人に受け継いでいくことが大事だと考えています」。

アワード受賞で製作のモチベーションアップ
その「へら鉸り加工」で最初につくり出したのは、フラワーベースでした。江口さんと工場長で新事業について話し合っているなか、ふと神棚に目が行き、「へら鉸り加工」だと溶接なし・継ぎ目なしの、水漏れしないフラワーベースができる、と思いついたのです。その後、大きさを変え、形を変え、洗練されたデザインを追求し、ようやく納得のいく商品ができあがったと感じた江口さんたちは、「福岡デザインアワード2021」に応募。見事、銀賞を受賞するにいたりました。
「受賞で製作のモチベーションが上がりました。パッケージもこだわり、商品化するとますます良く見えて(笑)。今はもっとこの技術を知ってほしい、広めたいと思っています」と江口さん。最近は建築デザイナーから依頼されて、「へら鉸り加工」でライトのシェードもつくったのだそうです。「電気をつけると、すごくおしゃれなんです。依頼者からも喜んでもらいました」と、喜びにあふれる江口さん。「へら鉸り加工」の技術が生かせる場を模索しているところです。




Sustainability 小規模事業者持続化補助金

田主丸町商工会に相談したきっかけ
今までBtoBの製作がほとんどで一般消費者向けの小売り商品を開発したことがなく、販売するためのパッケージや販路などを商工会に相談しました。それからずっとお世話になり、その一貫でデザインアワードに応募してみましょうと提案いただきました。

受賞後の目標
デザインアワードに出品したおかげで私たちの「へら鉸り加工」という技術を知ってもらえたこと、そして、さまざまなアドバイスをもらえたのはとてもためになりました。がしかし、「へら鉸り加工」はまだ一般的でないのが現実です。当社の一番の宝は技術なので、この技術を生かして消費者向けの商品を生産できることを企業や消費者に知っていただきたいと思います。

今後の課題
これまで約40年、ずっと下請けで受注した製品をつくってきたため、いざ自分たちで商品を開発し、宣伝していくとなると、どのように広めたらいいかがわからないのが課題です。また、個性的なモノづくりを可能にする「へら鉸り加工」の、定期的な受注につなげることも課題です。

Future その後の展開と未来への展望

若い世代をターゲットに商品を開発
デザインアワードで銀賞を受賞し、最も嬉しかったことはやはり、「多くの人の目に触れたこと」だと江口さんは話します。これまではBtoBの産業部品をつくってきましたが、受賞したフラワーベースはBtoCの製品。一般のお客様に見てもらえます。「もちろん反響もありますし、つくった本人もやりがいがあって嬉しいものです。今後は若い世代にも興味を持ってもらえるようなデザインや商品を開発したいと考えています」。
インテリアに取り入れやすそうな商品ラインナップを増やし、今の展示スペースを広げて将来的にはお客様とコミュニケーションがとれる場へと進化させる計画があるそうです。また、東京での展示会への出展も検討しており、「へら鉸り加工」の可能性を広げるべく江口さんたちの挑戦は続きます。

若手への技術の継承が未来を拓く
この特殊で高度な加工技術は、他にはないデザインのモノづくりを可能にします。それだけに、「思い描いていたもの」を形にするのが大変。それが、依頼されたものであればなおさらです。江口さんたちが初めて関わることになった建築・インテリア関連の仕事では、相手のイメージをしっかり聞き、それに極力近づけるように細心の注意を払っているそうです。互いの考えを擦り合わせていくことで、満足度が高く、かつおしゃれで素敵なモノが完成するのです。「当社の事業が製品を作ることから作品をつくることに、徐々に変わってきています」と江口さん。目指すは、部品製作と作品制作の割合が半々になること。さまざまな人と関わりながら、アイデアがふくらみます。
そのためにも、会社の信念である「信用」を繋いでいけるよう、求められたことに100%応えられる確かな製品づくりをますます心掛けたい、と江口さん。若手に技術を継承し、柔軟な発想力で作品がつくれる製作所になれば、未来は変わる。江口さんたちは40年間培ってきた歴史と技術を手に、新たな一歩を踏み出しています。

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